無線LAN関係の仕事をしていて、面白いのは情報系と工学系の境界領域にいて、両方のコミュニティに接せることだ。前にも何度か書いた事があるけど、ネットワークやアプリ等の上位レイヤーのコミュニティと、アンテナや変復調等の下位レイヤーのコミュニティは、互いに暗黙の不可侵条約を締結してんるんじゃないかと思うくらい融合してないと思う事が多々在る。
そんな中、免許不要で誰でも使える無線LANは、この2つの境界に、ちょっとした変化をもたらしたと思っている。顕著なのは、情報系の人達が、無線LANを使った時の課題に、いろいろなアイデアを出して取り組んでいることだ。
ところが、ちょっと残念なのは、せっかく色々とアイデアを出しても、ある程度のところまでしか深堀しないで、諦めてしまっているケースが多いことだ。
先般も、通信の遠近問題によって生じる現象について、なにやら新しい現象を発見して命名したがごとくの話しを聞かされて、ちょと関連論文を読んでみたら、特定の分野ではあるけど、その現象の回避に関する提案がそれなりにあった。
この一連の論文では、上位層から見えるある振る舞いを、さも大きな問題であるがごとく命名して、そらにその発生メカニズムを追求することなく、あたかも無線LANの運用に帰する特定条件下においてこういう現象が発生するという前提にしてしまっている。
ところが、この現象事態は、無線工学のほうでは、とても基礎的な原理原則として認知されているし、最低限の評価の一つとして無線システムを設計する時には取り組むものだ。つまり、その現象は、無線LAN固有でも、運用条件固有でもなく、もっとプリミティブなとこで生じている条件に帰してるのだが、そこにたどり着いていないというか、自ら線引きをしてブラックポックス化しているように見える。
また、これとは逆で、上位層に起因する現象や振る舞いを無視して、悪戯に下位層だけで課題定義と取り組みをしているケースもある。
結局のところ自分達の知らない世界を覘かずに、お仲間だけのコミュニティでお手盛りの議論をしているということでは、何時まで経っても溝は埋まらないし、本質的な課題の解決は生まれない。
お仲間内で、「こんな課題があって、こんな解決策発見したよ」「おお、凄いじゃん。でも、こうやったらもっと良くならない」みたいな事を繰り返しているわけだ。ある日、誰かが「なんか隣りの村に行ってみたら、その課題って常識で、だからこういう技術に移行しているらしいよ」なんて言ったら、座がしらけちゃうからか、隣りの村にそもそも行かなかったり、行っても黙っていたりするんじゃないだろうか?
技術のモジュール化、標準化が進んでいる現在、こういう自らが他をブラックポックス視することなく、真実を探求しシステム指向で各構成要素を俯瞰しないと、研究者も限界があるんじゃないだろうか?