社外取締役を勤めるCATV会社のある上野原市で、市長選挙が行われた。 長期にわたって市長を務めた前職が任期満了し、新人二人による選挙となった。 一人は、元副市長N氏で、もう一人は元町立病院院長E氏で、その政策は関係する情報通信事業以外に大きな差は無かった。 この情報通信事業については、税金の無駄遣い、巨額の保守費用が発生し、財政圧迫をする。 地上波デジタル放送は、国策なので何もしなくても、国が敷設するという事を強調した事業反対派のE氏が当選した。 長期政権の閉塞感に転換を求める民意が有る事は、とても判ったし、市政というのは、通信事業だけてはないので、そもそも市民でもない部外者の僕が、今回の選択を評することはできない。
しかし、とても残念なのは、地デジ難視聴対策、ブロードバンドゼロ解消という二つのディジタルデバイドに対する、理想的な取り組みをした自治体の事業が、誤った知識で政争の具にされてしまったことは、関係者として大変悲しいので、改めて、その誤認についてまとめてみる。
公設民営の有効性への誤解
上野原市の選択した公設によりインフラを導入し、IRUによって民間に貸与し、運営を行う手法は、中山間、過疎をふくむ地域では、有効な手法であることは、既に多くの地域で実証されている。
保守費用の誤解
上野原市の場合、IRUの伝送路賃借料収入は、年間保守費用よりも高く、実質的な保守負担は、発生していない。 しかも、インフラの一部は、IRUで貸与しない行政用なので、保守費用の実質的な大幅軽減となっている。 残念なことに、反対された人は、発生しない減価償却費などを無理矢理積算して、総事業費の1/3近い年間維持費がかかると主張したが、こういう数字がそれだけ一人歩きをしてしまったようだ。
第3セクタの誤解
CATV/ISP事業者には、市が2.6%程の出資をしている。 このため、広義には第3セクタということになる。 ここで、第3セクタという呼称は、あたかも事業の多くを行政が税金で損失補填をしてまで支える事業だというような印象が強い。 ところが、この事業者は、純然たる株式会社であり、市以外の出資者は、民間であり、実態は巷でイメージされる第3セクタとは大きく異なるのだが、ここでも"第3セクター"という言葉のイメージが一人歩きしたようだ。
イメージと実態
つまり、市は実質運営費が限りなくゼロで、二つのディジタルデバイドを解消し、しかもその原資起債も、合併特例債という有利な方法を用いたので、行政マンとしては、大ヒットだったのに、その実態を市民に説明する説明責任を全うしきれなかったのではないだろうか。
結論から言うと、多くの大衆には、精緻な実態よりもイメージをもって、訴えることがとても有効であったということだろう。
今後
E氏は、事業の中止も含めた見直しを、公約に掲げていたが、ここから先は、そのイメージ戦略ではなくて、具体的な手法を自ら実践していく必要がある。 IRUの解消や合併特例債事業の中止を行えば、賠償金や交付金の返済が発生するし、そもそも、税金の無駄遣いと訴えた積算根拠が、実際に存在しないとなると、代案無き批判をしても、市政に何の益も生まれない。 イラクに大量破壊兵器があると言って、さんざん叩いて政権を得たものの、大量破壊兵器がなかったのと同じだ。
それでも、民意に応えて実態を正しく把握し、公開できた事に意味を見いだすというのがゴールだろうか?
つまらない、意地の張り合いなどによって、折角の地域の情報化基盤が、失われたり、遅滞したら、一番の被害者は、市民であることは間違いないので、そのような事には、ならないように関係者として努めたい。