僕のIETFへの参加は、継続的ではなく、数年に一度の離散的な参加だ。 そのため、参加する度にIETFがというよりも、自分の環境や経験が変るので、相対的に学ぶ事も変ってくる。
ここ数年での最大の僕側の変化は、IEEE802.11のTGチェアになり、IEEE式の議事運営や合意形成に対する知識と経験を重ねたことだ。 このため、今回はどうしても全ての事に対して、比較的に見てしまう。
もともと、僕はインターネットに接したのは、比較的新しくて最初にドメイン名を取得して、WEBサーバーとか立ち上げたのは、1996年くらいだったと思う。 それまでは、Nifty Serveとかのパソ通を使っていて、インターネットもNiftyからのゲートウェイみたいなので、電子メールのやり取りをしていたくらいだった。
幸いに、その頃スペクトラム拡散の無線機を開発して、その利用方法で試行錯誤していた時に知り合ったのがPRUGで、このインターネットコアな人達から、沢山の事を教わった。
その中でも、End to End 理論、自律分散というコンセプトが、とても僕の嗜好にマッチしたし、その合意形成における 「Rough consensus & running code」コンセプトも魅力的だった。
その後、無線ルーターの開発を通して、日本のインターネットの第一人者である人達と深く交流するようになり、IETFにも参加して、まさにその自由闊達な雰囲気に魅了された。
ところが、あれから、十数年が経過し、かつIEEE802.11でのチェアをしている立場で、久しぶり参加してみると、そこにはいささかの課題も感じる。
IETFもIEEE も各々のルールに基づき、合意形成を進めることには変らないし、フロアーでの議論も変らない。 でも、 IETFがRough consensus なのに対して、IEEEが基本的にVoting である点は、文化というか雰囲気がまったくちがう。 適切な表現か微妙だけど、ある意味 緩さと殺伐感の違いを感じる。
では、どちらが良いのかというと、おそらくそれぞれに一長一短で、イノベーションを起こすのは、IETFな土壌な気がする。 (かつては、そうだったという人も多い)
これに対して、ではIEEE802からイノベーションが生まれないかというと、今日の無線LANの隆盛をみれば、そんなことはない。 ただ、IEEE802の下にもいくつかのWorking Groupがあって、全部が成功しているわけではない。(最近よく聞くジョークでは、偶数ナンバーは駄目だよねというのがある。)
思うに、無線LANの場合には、IEEE802.11だけではなく、もう少し上のレイヤーでデファクトスタンダート的な取捨選択をするWi-Fiアライアンスとの連携が大きいのだろう。
何かを推進するには、やはり自由闊達なフェーズと、カチッとした意思決定のフェーズが、スパイラル的に続くことが重要なのだろう。
しかし、国内の審議会とかは、自由闊達な場は少なくて、なにかにつけて「いかがなものか」という上から目線の会議と、不透明で恣意的な謎のルールが支配しているのが、きっと国際競争力を失う一因なのではないだろうか?