朝、某取引先で打ち合わせの時に、無線LANの実験をするために必要な機材についての相談があった。今回に限らず似たような相談というか話は、よくある。とくに、無線LANのプロトコルなどを研究している情報系の人と同様の話をすることが実に多い。
無線LANがあまりに普及したお陰で、情報系で無線LANの研究をしている人が沢山いて、学会とかでも沢山の発表がある。そこで、結構僕は辛辣に、その評価手法や前提条件の根本的な間違いを指摘するこことが多い。とくに、プロトルコの新提案をしました、計算機シミュレーションしました、実験しましたというパターンだ。こういう話では、そもそも支配性のある要素が前提から欠けていたり、シミュレーションの条件があまりに非現実的であったり、実験がものすごく局所的要件に支配されていたりというのが多い。
なんでいきなり電波飛ばして実験しちゃうの?と突っ込むと、無線はやってみないと判らないからとか、実験の仕方が判らないからとか言う人も多い。ちゃんとコンダクティブな環境で実験すれば、かなりの検証ができるという無線系技術者には当たり前の事が、情報系の人達にはプラックボックスだったりするようだ。
こういう指摘を受けた人が、それではということで実験をするとなると、高周波系の実験装置というのは、結構高価だったりする。例えば、SMA-SMAのセミリジッドケーブルにしても、固定アッテネーターにしても、それなりに費用がかかる。主に、ソフトを中心にしている人にとっては、そんな治具、工具の価値が判りづらいようで、そんなにちゃんとやんなくても、もっと簡易に出来ないかとか、安く出来ないかと言われる事も多々有る。
そりゃ確かに無線LANは、いまや数千円の世界だし、それを使うという側から見たら、CPUボードやPCにカードをさして、サクッと動くから、いかにも簡単に思えるのかもしれない。
でもね、そこには、それなりにものつくりの様々な設計や実装技術がある訳で、それを改造なり改版なりして,何らかの新しい事を提案しようというのなら、その根本的な事をちゃんと理解して扱うべきで、あまりにハードウェアというかものつくりを軽視してませんかと言いたくなる時がある。
例えば、無線LAN機器同士を同軸でつないで特性を計るにしても、コネクタ、同軸、アッテネーターなどの選択理由はあるし、その入れ方だって理屈がある。それなのに、Sパラメータどころかインピーダンスも考慮しなかったり、SMAコネクタをスパナも使わずルーズカップリングさせたり、いきなり阻止量の大きなアッテネーターを挿入したりじゃ、まともな計測は出来ないんだよという事が、どうも判ってない人が多いようだ。
測定物をシールドボックスに入れたり、電源ラインにフィルタ入れたりして測定するのは、それが正確な測定に必要なことだからで、簡易測定だからアルミホイルで包んでなんていう人は、測定結果が環境の劣悪にリニアに比例するとでも思ってるのだろうか?と小一時間突っ込みたい。
測定方法や測定環境が正しければ、測定する物差しの精度での測定はできる。しかし、測定方法や測定環境が正しくなければ、物差しの精度に関わらず正しい(精度が高いか低いかではない)測定は出来ないということを、はき違えてはならないんだよね。
いろいろな物が、モジュール化して、簡単になったからか、出来合のものを、箱に入れてちょこっと組み合わせを変えれば、革新的なものが出来るって勘違いしてる人が多い様で、「ものつくりを舐めるな」と叫びたい衝動に刈られる事が最近おおい。