クライアント先でSDR(Software Defined Radio)トランシーバー関係の打ち合わせ。僕がこのクライアントにSDRの技術を提案して、最初にTIのDSPでデモをしたのは、1993年頃だった。あの当時は、A/D,D/Aのサンプリングレートも十分高くなかったので、アンダーナイキストサンプリングなどを取り入れたりした。
その後、各社がまだAF サンプリングだったのに対して、直交乗算器をハード(GA)で行うことで、IFサンプリングをする方式を提案して、ゼネカバ受信機を開発した。この時、アナログフロントエンドのダイナミックレンジやNFの低下に随分と苦労させられた。
あれから、20年以上が経って、特定用途だとダイレクトコンバージョンが当たり前になったけど、相変わらずゼネカバ系は、フロントエンドがアナログ回路お化けだ。
しかし、このあたりの回路設計をできる人が減る一方で、SDRがそこそこに普及していくと、アナログ回路の意味や特性を知らずにディジタル処理しか知らないエンジニアが増えるのかと思うと、ちょっと怖い。
たまたま、一昨日も某大学で電力系の研究をされている教授と話す機会があった。話の中で僕が無線エミュレータで実装している信号処理の話し、電力系の信号処理も一緒だよねということで盛り上がった。また、別なプロジェクトでは、光系の人たちとも共同研究をしているけど、そちらでも処理の考えややる事は一緒だねとなる。
なにかというと、結局のところ波というもの対するプリミティブな処理は、遅延、振幅、位相をどうするかに尽きるし、それを直交平面で取り扱う意味というのは、電力も無線も光も一緒だということだ。
こういうプリミティブな部分をしっかりと理解している事が、エンジニアリングにはとても重要な事なのだが、簡単に実装できる、ソフトで簡単に変えられるというような表層的な事ばかりしていると、そこを覚える機会が減るのかもしれない。プリント基板のフットパターンと基材の誘電率なんてことを気にしないで、ゼネカバでも全てがディジタル処理できる時代は、将来来るかもしれないけど、それまでに基礎をしっかり抑えるエンジニアが枯渇しないでほしいと思う。