IEEE802.11に関するいくつかの特許についてその交渉代理を務めるパテントファームの人間と面談した。 IEEE802.11系の製品は、1993年頃は、ベースバンドプロセッサーと、IF、RFというマルチチップ構成で、一つのシリコンベンダーが全てを供給することが出来ず、ディスクリートで設計、開発していた。 その後、当時のHarris SemiconductorがAntenna to Bitというコンセプトで、完全なリファレンスデザインとドライバーの提供をはじめたことで、一挙に市場競争力をつけ、Intersilで全盛となった。 これに追従した各社や新興勢力も同様のチップセットとリファレンスデザインの提供をはじめ、さらにはRF、IFも含めたシングルチップが進み、シリコンベンダーも淘汰された。 今やPCやプロジェクタなどでは、mini-pciのモジュールが採用され、APなどは、リファレンスデザインとミドルウェアによる製品がほとんどだ。 つまり、ゼロスクラッチから回路を書いて、チップを選び、ドライバーをポーティングして、アプリを書くなんていうことは、ほとんどの企業が今や行っていない。
一般に、リファレンスデザインやミドルウェアを外部ベンダから購入する場合、購入者は、その知的財産権が他の第三者の知的財産権を侵害していないことや、第三者からのクレームにより使用が出来なくなることがないことを外部ベンダに担保させる。 ところが、世の中に出回っている製品は、どこのリファレンスデザイン、ミドルウェアを使っているかとか、内部で第三者のモジュール(部品)を使ってるかは公開されていない。 このため、パテントファームなどは、当然ながら最終製品を出荷しているセットメーカーなどにコンタクトをしてくることになる。 コンタクトされたセットメーカーは、そんなのは部品屋に聞けということになってしまうので、かなり複雑だ。 物が複雑で高度になり、開発や設計が分業化されたことにより、パテントなどの扱いもひたすら複雑化しているというわけだ。
パテントといえば、ベンチャーキャピタリストなどは、技術系ベンチャー企業の評価をする時に、すぐにパテントの有無を評価項目にいれたがる。 しかしながら、パテントが有形(ロイヤリティ収入など)、無形(競合の参入に対する抑止力など)を問わず、どのようにプロフィットがあるかを、きちんと評価していない。 単純にパテント取得の有無だけを評価し、パテントの費用対効果を評価することはしないようだ。 実際に、基礎特許的なものを除くと、スタートアップなどが特定の分野の少ない量のパテントを有していても、多くの場合費用対効果は負になっているはずだ。 パテントの維持管理費用は、結構高いのだ。