夕方から、TTC(一般社団法人 情報通信技術委員会)の平成29年度 情報通信技術賞(総務大臣表彰)の授賞式に出席。あかま総務副大臣から表彰状を授かった。
今年度の同賞には、僕以外三菱電機の内藤様と慶應大学の村井先生で、どうみても間にはさまる僕は、捕まった宇宙人状態。某大学の卒業式ではないので、一部に要望のあったコスプレではなくて、ネクタイと紺ブレで参加したものの、やはりお尻がムスムズして、有頂天家族の矢三郎みたいに、いつ尻尾がポンって飛び出すか、気が気じゃなかった。
記念撮影前には、副大臣をはじめ、審査をされたTTC会長や審査委員長の皆様と、短い時間懇談。こちらは、総務省の総括審や課長も同席されていたし、少人数だったし、隣に村井先生いるしで、少しは落ち着いた感じで話しもできた。
しかし、授賞式での、受賞者挨拶というのは、緊張していて話したいことの半分も話せなかった。旧知の元総務省幹部の方が司会で、挨拶後にかるくツッコミをいれてくれたので、場の雰囲気は悪くはなかったけどね。
というわけで、少しこの受賞で感じたことを、忘れないうちに書いておく。通信といのうは、そもそも一人では成立せず、通信の相手方と共通の言語や手順がどうしても必要だ。また、そこに使われる電波とか電線とかの使い方も同様に、通信する同士で共通の技術である必要がある。そこで、こういう諸々なことを標準として取り決めることで、広域な通信のサービスは成り立っている。
でっ、革命や戦争なんて事態において、放送局や通信設備を最初に掌握することが重要という事例にもわかるように、社会基盤としては、水や電気についで重要なライフラインなわけだ。
そんなことから、通信というのは、昔は公共事業として公社がこれを行なっていて、それは日本だけの話ではなかった。したがって、通信技術の研究開発や技術標準というのは、いわゆるインカンバントキャリアといわれる組織が担い、国際間の標準も国が主体となって国際連合の組織であるITUを中心に策定され、各国が一票をもつデジュール型標準だった。TTCは、昨夜のパーティでインターネット協会の藤原理事長も話していたように、こういう時代に誕生し、ながらくその主たるプレイヤーは、国とインカンバントキャリアだった。
これに対し、通信の民営化に加え、インターネットが登場し、自律分散的な取り組みが始まった。ここから、インターネット( 自律分散 End to End)と電話回線(集中 サーキットスイッチ)の間で、様々な競争があった。そして、競争の結果TCP/IPというインターネット技術が、いくらかの抵抗的改変を含みながらも、現在は通信キャリアの基幹技術の主役となっている。そんなわけで、ここ10年くらいTTCが寄与したり策定してきた国際標準にも個別技術としては、インターネット技術が沢山ある。
しかしながら、TTCの会員やその表彰の対象技術は、デジュール型であり、対象者は、インカンバントキャリアやそこと取引する大手企業だった。ところが今回は、ITUで活躍されてきた内藤さんに並んで、インターネットの第一人者である村井先生が表彰されたことは、大きなターニングポイントであることは間違いない。
さて、これに加えて私の表彰理由であるIEEE802.11というのは、無線LANとかWi-Fiとして広く知られているが、これはインターネット以上にインカンバント系な世界とは距離があるものだ。無線LANというのは、もともとISM(Industry Science and Medical) バンドと言って、ゴミ箱バンドなどと言われる周波数を通信に使ったことが最大のイノベーションだった。
通信に限らず電波というのは、物理的に社会の共有資源なので、その使徒や割り当ては、国により監理されているし、国際的にはITUによる厳格な条約が存在する。そんな中で、ISMバンドは、電子レンジなどにも使われるもので、通信には適さないから、はっきり言ってそこで何しようがどうぞご自由に的な、無線を使うための従事者免許も不要なものだった。
したがって、まぁこんなところ使って通信なんていうのは、天下のインカンバントキャリア様が社会基盤である通信サービスに使うなんてのはあり得ないから、標準なんて勝手にやっててねというものだった。
実際に、僕が最初の無線LANの無線機を作った時は、27MHz幅しか電波の割り当てがなく、小電力データ通信なんて名前だった。MISでは、第一種通信事業者として、この無線LANの設備を公的な場所に設置しようとしたら、そんなものは構内設備だから公益性がないくらいに言われた。ところが、これもインターネットと同様で、いまや社会の中で重要な技術でとなり、その標準であるIEEE802.11の経済波及性は、誰もが認めるものとなった。
こういう草の根的というかボトムアップな通信技術は、その標準化もデジュール型とは大きく異なる。インターネットの標準作定を担うIETFも、IEEEも、技術標準の作成は、個人が標準作定組織で提案、議論して作られていて、これらはフォーラム型と呼ばれている。
今日の表彰の受賞者のなかでは、僕と村井先生、そして会長賞に表彰された西田さんが、このフォーラム型分野での標準化活動からの表彰者になる。これは、今までのTTCの表彰範囲にはなかったことで、これも本当に大きな転換点だ。いみじくも、藤原さんがそのことをTTCの進化という言葉で表していた。
さらに言えば、所謂大企業に属さない、または属していなかった、僕のような者が、ここに表彰されたことも、まったく前例がないのではないだろうか。
新しい事をやるというのは、前例がない事に挑むので、それなりにハードルはある。でも、その代わりに、こういう転換点を経験できる魅力というのは、まさにプライスレスな喜びだったりする。
標準化という世界は、もちろん所属組織の支援や周りの人の協力があってこそ成果をなし得るものではある。とはいえ、そこに寄与する各個人の活動実績というのをこのような形で評価いただけるというのは、標準化という業務に携わる全ての者にとって、大いなる励みになるだろう。
僕は、たまたまその節目で、この表彰をいただいたのだが、若手技術者のキャリアステップの一つとして、後進にとってのモチベーションになれば、幸いだと思う。
改めて、この標準化活動や今回の表彰に関わった全ての人に感謝をするとともに、これから若い人がフォーラム標準の活動へ取り組んでもらえるような、サポートをしていく責任を感じた日だった。
でも、やっぱし僕にはかなり敷居の高い世界だったなぁ....二次会で、村井先生に、緊張してる真野を見たの初めてだ的な事を言われたけど、すいません確かにビビりでした。www