通信事業に限ったことではないが、企業の経営評価、事業評価というのは、なかなかわかりづらい。 特に、経営や会計、財務に関わらない多くの人にとって、P/L(損益計算書)は、判っても、B/S(貸借対照表)は、読めない人が多い。 さらには、通信事業のようなCAPEX先行型の事業については、単に期間収支だけをもって、価値判断することは、まったく素人というかナンセンスなのだが、これも世間一般の人にはなかなか判りづらいようだ。
そんなわけで、関係している上野原市のCATV/ブロードバンド事業については、諸々の政治的な背景もあってか、その事業継続などで誤解をされている点があって、これをどう判りやすく説明するかが重要だったりするので、少し説明を書いてみる。
日頃僕とおつきあいのある経済学者の皆さんや、通信事業の経営に関わる人達には、当然のことなので、そんな人は以下は読み飛ばしてください。
通信事業のように、加入者から通信費をいただく事業では、開業から時間とともに加入者を獲得していき、これに応じて加入者収入が増加していく。(下の図の黄色い線)
これに対して、原価は、加入者の多寡にかかわらず常に発生する費用(家賃とか人件費とか)固定費部分と、加入者の数に応じて発生する運用費用(請求書の発行通信費とか)がある。 (下の図の青い線の部分)
一般に料金の設定というのは、とうぜん運用費用よりも高く設定するので、加入者が増えると少しずつ利益が生じていく。 しかし、固定費の部分があるため、一定の加入者数に達するまでは、期間収支としては赤字となり、その間は月々損失が累積されていく。 そして、この一定数の加入者を超えると、今度は月々の収入が、運営費を超えるので期間収支として黒字化する。 この時点を、一般に損益分岐点といい、月次で黒字化することを、単月黒字化などという。
この損益分岐点を超えると、その後は毎月、少しずつ利益が蓄積されていく。 そして、加入者がある程度で飽和した場合も、そのまま月次での収益が蓄積されていく。
この結果、長年事業を継続していくと、ある時点で過去の累積赤字を蓄積された利益が越えるが、このことを累損解消点という。
このように、通信事業等では、一般に損益分岐点を超えるまでは、期間収支(年度決算)が赤字になるのは、当然であり、それは大手でも中小でも同じである。 従って、このような期間にある会社の経営や事業を評価するのには、単に年度の決算書の数字を見ても意味が無い。
では、何で評価するかと言うと
1.契約に対して、加入者の増加が予定どおりであるか?
2.単月黒字とするための加入者数や時期は適正なのか?
3.事業継続に必要な当面の資金調達力が有るか(資本金や借り入れによる調達)
という点になる。(当面のというのは、単月黒字までが一つの目安)
一般の人には判りづらいのだけど、借入金があるということは、この3の資金調達力があるということだったりもする。
そんなわけで、関係している上野原の会社は、幸いに自己資本と借り入れによる資金調達も出来ているし、加入者推移は事業開始以来、連続純増だし(当然)、損益分岐目標の加入者数とARPU(加入者あたりの売上単価)も妥当なので、関係者としては安心しているわけだ。