参加しているIEEE802の標準化は、投票権は参加する個々人に付与される。ここで、個々人は技術や制度にたいする専門的知識を有する独立したスペシャリストであり、個々人がその知識や経験に基づいて、標準化への寄与をし、様々な意思決定に対して議決権を行使する。
とはいえ、標準化は今後の製品や市場展開の重要な鍵となるうえ、そこに採用される必須的な知財は、REASONABLE AND NONDISCRIMINATORY (RAND) として取り扱われる。つまり、標準を採用する人には、公平かつ合理的な価格で知財の利用を認める必要が有る。合理的な価格というのは、ちょっと曖昧ではあるが、要するに無償ではないわけだ。だから、知財戦略としてたくさんの知財を有している企業、とくにpatent trollを主たる事業にしているような会社にとっては、かなり肝となる。
ということで、最近は表面的というかオフィシャルな会議とは別に、個々の企業が連携してSIG(Specail Interest Group)のような民間組織を組成して、協調して標準化会議に提案をすることが多い。とくに、次世代規格のような大きくインパクトのあるものは、このような行為が暗黙のうち行われてきた。
僕がチェアする802.11aiでも、とある会社が個々の投票権を持つ社員に対して、その議決権行使に対して独自性を阻害するような投票指示が行われたとして、数ヶ月前に調査が行われた。結果としては、可能性はあるが証拠不十分という報告だった。
しかし、今回は次世代無線LANの規格であるTGaxで、このSIGの存在が指摘されて、大規模な調査が実施され、その報告書が本日開示された。この報告書では、明確にSIGの存在が示され、その内部ルール有無やメンバーの共同提案の数や履歴などの事実が詳細に報告された。そしと、結論から言えば、Dominanceな行為が行われたと認定している。そして、米国では、こういう行為自体が不正競争防止法的な観点から、法的な訴追リスクを持つわけで、これは結構深刻な展開になる可能性が有る。
しかし、WGのチェアもTGのチェアも、このSIGでも主要な立場にある大手企業と契約しているスペシャリストであるのだが、それはそれとして、独立したスペシャリストとしての意見を持っているのが、彼らと話してわかった。
たまたま、昨日の大統領選挙後の各候補などの発言などでもそうだけど、ルールに対する厳格さが存在するからこそ、自信の主張は違っても、結果を尊重し、それを受け入れる事が出来るのではないだろうか。
日本では、勝てば官軍、負ければ賊軍で、江戸の仇を長崎で打つくらいの痼りが残ることが多いようだ。選挙で負けた方は、いつまでたって対案型にならず審議拒否や嫌がらせ的批判を繰り返し、勝った方は民意は我にあり的に強硬策をとるしでは、痼りは消えない。
今回のドミナンス問題も、問題が露呈した以上、今後どうするかの建設的な議論に進むことを期待して見守りたい。