今回の震災の報道を通じて、被災地における避難所での被災者情報の流通の重要さと、ICT社会といいながら、日頃の研究や技術が活かしきれていない事を再認識している。
丁度、この3月まで3年間に渡り、自律的無線ネットワークによる被災情報提供システムの研究開発というプロジェクトに参加していた。 これは、災害時に避難所にパッケージ化した無線装置とDB等を配置して、自営通信網で避難所間を接続するとともに、各避難所で収集される被災者の情報を避難所間で逐次同期させる仕組みを研究し、実際に避難所になりうる場所を使った実証実験なども行なった。
元々,僕は1996年くらいからスペクトラム拡散の無線装置を開発し、これにIPルーティング機能を搭載した無線ルータを開発して、自律分散、自営網での運用、構築を沢山行なって来た。 このような、通信事業者に依存しない自営通信は、災害時にはとても有効で、さらに画像、音声、データーを問わない、IP網の汎用性は、様々な利用形態に適応できることから、災害時の通信として、自営無線+インターネットは有効な手段として、いろいろと取り上げられて来た。 僕も、1999年から2002年頃までには、Wide Projectの人達と、IAA(I am alive)等で、防災訓練等にシステムを提供したり、訓練にも参加してきた。
また、ここ数年は、飛行船やアドバルーン等をつかって、臨時に無線通信網を構築する研究や、無線メッシュネットワークなども、沢山研究されてきた。
しかしながら、今回の震災に伴う、報道をみている限り、そのような研究が、被災地で実用的に貢献されている姿は、残念ながら見受けられない。
一方、通信各社の提供する安否確認ダイヤルや掲示板は、各社各様で、こちらも効果は大きいけども、まだまだ被災者情報や安否情報の流通が十分でないことが見て取れる。
しかしながら、情報量といい、フラッティングに許容されるレイテンシーといい、各種通信機器の性能といい、今日の枯れた技術で対応できないようなハイテクが必要な課題では無いと感じている。
これは、プロトコルとか日頃の支援体勢の問題で、事故があったら110番、救急の時は119番みたいな社会インフラとしての認知と、備えがあれば、解決することだと、つくづく感じている。 例えば、IPヘッダーに、緊急情報のTOSタグがついて、ペイロードに氏名、住所、所在地等が入るパケットが投げられたら、それを分散DBに格納するみたいなお約束が成立して、PCにも携帯にも、ボタン一つで、GPSがある場合にそのデータも付して、送出できる機能を具備することは、直ぐにでも実現可能だろう。
日頃、ICT推進とか国際標準化推進とかの研究開発の一旦にいる人間として、今回の震災で、いままでの研究成果が、果たして被害の拡大阻止や復興支援の一助に、直接、間接に関わらず、少しでも役に立てたのか? また、今回だめでも、今後役に立てるための何かを得たのかは、真摯に受け止めたい。